PGT-A最大の問題 〜モザイクについて〜
こんにちは、院長の中村嘉宏です。
今回はPGT-Aでもっとも悩ましい問題、モザイクについてお話いたします。
モザイク(モザイク胚)とは?
モザイクとは、「正常な細胞と異常な細胞が混じりあっている」状態をいいます。ですので、一口にモザイクと言っても、この言葉が示す状態は様々です。
考えられるパターンは下の図のように分類できます。赤が異常(異数性)で、青が正常な細胞です。
まず、大切なことは、あくまでも栄養外胚葉(胎盤になる部分)の一部のみを検査しているということです。
そのため、栄養外胚葉が正常だとしても内部細胞塊(赤ちゃんになる部分)には異常があるかもしれません。あるいはその逆で、栄養外胚葉が異常であっても、内部細胞塊は正常かもしれません。そして、このことを移植する胚では証明する方法はありません。
ただ、研究などからわかっていることもあります。それは、どちらかというと栄養外胚葉に異常があっても、内部細胞塊に異常があることは比較的少ないということです。理由として、内部細胞塊が赤ちゃんへと成長していく過程で異常な細胞が除去される可能性、異常な細胞が胎盤側へ押し込まれる可能性が考えられますが、そのメカニズムが完全にわかっているわけではありません。
それ以外に生検を行った細胞数個のうち何個かが異常(異数性)であり、残りが正常な状態もモザイクと呼ばれます。例えば、5個生検してきた細胞のうち、3個正常で2個異常であれば、40%のモザイクとなります。
モザイク胚は移植するべきか?
一般的にPGT-Aを行った胚盤胞のうち、17.5%がモザイク胚だと報告されています。これは決して無視できない割合です。ここで、「もし、モザイク胚を子宮に移植したらどうなるの?」と疑問に思われるでしょう。
最近の研究では、モザイク胚は正常胚にくらべて着床率や生産率は落ちるのですが、健康な赤ちゃんが生まれたという報告もなされています。
モザイクの悩ましい点は、どれくらいのモザイクならば、移植しても良いのかはっきりとした基準がない点です。
着床前診断の国際学会であるPGDIS(Preimplantation Genetic Diagnosis International Society)の見解の一部を抜粋すると以下の通りです。
① モザイク率70%以上の胚は移植しない
② 複数の染色体でモザイクが見られる場合、移植しない。
このほか、異常を起こした染色体の番号によっても移植する、あるいは移植優先度をさげるなど細かな規定があります。今後、症例が増えることやモザイク胚を移植し、出生したお子様の成長を観察することでこの基準も変わっていく可能性があります。
実は、今年5月にベルリンでPGDISの国際学会が予定されており、私も参加する予定でした。残念なことに、コロナウィルスがドイツ国内でも拡散しているため、中止となりました。
ここ最近では、コロナウィルスの感染拡大もヨーロッパが中心になりつつありますね。
もちろん国内でも引き続き気をつけるべきでしょうが、過剰に恐れる必要はありません。手洗いや消毒などの一般的な感染症対策をきちんとして過ごしましょう。
次回はPGT-Aについての現状についてお話いたします。