新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の妊婦さんや赤ちゃんへの影響は?
医師の藤森です、こんにちは。
新型コロナウイルス感染症が日本で確認されたのが、今年の1月15日。先日4月7日には、残念ながら緊急事態宣言が出るまでに感染が拡大してしまいました。この新型感染症は妊娠にどのような影響をもたらすのか、妊娠した時にあかちゃんは大丈夫なのか……、心配の種は尽きません。
まだまだ不明な点も多いですが、その中でもわかってきていることを中心に、今日は新型コロナウイルスのお話をさせていただきます。
新型コロナウイルス(COVID-19)とは
新型コロナウイルス(COVID-19)とは、コロナウイルス属の一種です。
従来、人間に感染症を起こすコロナウイルスは6種類が知られてきました。そのうち4種類は、いわゆる風邪のウイルスとして世界中、全年齢に蔓延しており、特に冬季の風邪の約30%はコロナウィルス属によるものとされています。
残り2種は、2002〜2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)と、2012年に発生しているMARS(中東呼吸器症候群)です。これら2つは重症化しやすいことが知られています。
今回は7種類目のウイルスとして、新型コロナウイルス(COVID-19)が発生しました。
中国からのデータによりますと、約80%が無症状〜軽症、15%が中等症、5%が重症と言われます。医療崩壊がない地域において、致死率は0.5%ほどです。SARSやMARSに比較すると重症化しにくいといえます。
潜伏期間は平均約5日、最初はふつうの風邪の症状と見分けがつきません。
新型コロナウイルス(COVID-19)と、妊婦や赤ちゃんへの影響について
新しい感染症であるため、データが乏しい状態ですが少しずつデータが論文として発表されてきました。
現時点で、妊娠中後期の妊婦において新型コロナ肺炎になりやすい、重症化しやすいといったデータは報告されておりません。日本産婦人科学会からも2020年4月7日の報告で同様のことが示されております。
ここで最新の論文を紹介します。
Maternal and Perinatal Outcomes wtth COVID-19 : a systematic review of 108 pregnancies
(新型コロナウイルス肺炎による妊婦と新生児の予後について:108例のシステマティックレビュー)
2020年4月7日にZaighamらによって発表された論文です。
システマティックレビューとはこれまでに論文発表された症例を積み重ねて解析をしたもので、総集編のようなものです。この論文の中では主に妊娠後期の症例108例について述べられています。
まず、新型ウイルスに罹患した妊婦が訴えた症状としては、発熱が最も多く68%で、その他にせき症状が34%、不快感13%、呼吸苦が12%でした。更に、ICUに入院した人が3名(2.8%)、うち1名(0.9%)は多臓器不全をおこす重症肺炎のためECMO管理(人工呼吸器)となっております。死亡者はいませんでした。これは妊娠していない人における新型コロナ感染での重症化率と差が見られません。
同じコロナウイルス属による肺炎でも、SARSやMARSでは高い致死率がみられたことと大きな違いです。
108例のうち8割の86例が出産しておりますが、その約9割が帝王切開分娩になっております。
帝王切開の理由として、胎児理由のものがありますが、同時に理由不明なものも多く、また中国では新型コロナ肺炎の分娩を帝王切開としている場合もあるようです。日本産科婦人科学会の見解では、一律に帝王切開にはせずに、患者さんの状態に応じて柔軟に分娩方法を決定することなっています。
次に気になる新生児の経過です。
死産例が1例報告されていますが、これは先に述べた多臓器不全を伴う重症肺炎のケースです。死産の原因は母体の全身状態の増悪によるもので、直接ウイルスが原因となったわけではありません。その他、新生児死亡例が1例みられておりますが、子宮内でウイルス感染したかどうか不明です。
ウイルスが子宮内感染をおこすかどうかについて、現時点ではあきらかにウイルスの移行を示すデータはありません。
一部に、新生児の血液中にウイルス抗体が発見されたというものもありますが、臍帯血や胎盤にはウイルスが発見されておらず、抗体検査の誤差によるものである可能性もありますが、子宮内感染であることを完全に否定できるものではありません。
いずれにせよ、ほとんどの症例で、新生児に大きな問題はみられておりません。
まとめ
現時点では新型コロナウイルス肺炎が妊婦におこりやすい、重症化しやすいといった報告や、新生児重症例が多いといった報告はされておりません。
コロナウィルスを過度に恐れる必要はないかもしれませんが、同時に決して侮ってはいけません。
ですから大切なのは、「感染予防」です。こまめな手洗いとマスク着用(欧米やCDCも感染拡大予防としてのマスクの効果を認めるようなりました)、3密(密閉・密着・密接)を避けるようにしてください。