PGT-Aの問題点 生検の胚への影響①
こんにちは、院長の中村嘉宏です。
非常事態宣言が解除されて街にも賑わいが戻りつつありますが、当面の間、マスクは手放せない生活が続きそうです。
マスクを着けていると喉の乾きを感じづらくなります。乾燥を防ぐという意味ではメリットのように思えますが、裏を返せば自分自身の乾きに気付きづらいということでもあります。
これからいよいよ熱中症の危険性が高い時期に突入します。マスクを着けていることで自分自身でも気づかないうちに脱水症状を起こしてしまう可能性があります。今年は特にこまめな水分補給を心がけるなどして、上手にマスクと付き合っていきたいものですね。
さて、本題に入りましょう。
PGT-Aは、胚盤胞の胎盤になる部分(栄養外胚葉)のうち5から10細胞をちぎりとってきて(これを生検/バイオプシーとといいます)、その細胞に含まれるDNAを増幅して次世代シークエンサーにかけて検査します。
ちぎりとる、とてもワイルドな響きです。そうすると当然、「生検によって胚細胞がダメージを受けるのではないか?」という疑問が出てきますね。
Association of blastocyst features, trophectoderm biopsy and other labolratory practice with post warming behavior and implantation
少し古い論文ですが、2018年9月にHuman Reproductionに掲載されたCimadomoらの論文に胚細胞のダメージについての報告がされています。要約してご紹介します。
胚盤胞を3つのグループに分けて凍結します。
① 胚盤胞を凍結したグループ(n=1161)
② PGT-A(透明帯切開+生検)を行って胚盤胞を凍結し、
かつ染色体数が正常であった(正倍数性といいます)グループ(n=968)
③ 透明帯切開のみ行い、胚盤胞を凍結したグループ(n=844)
また、どの群においても凍結前の胚をexcellent/good/ average/ poorの4段階で形態評価し、胚盤胞に到達した日も5日目/6日目/7日目で区別しています。
まず、一見するとPGT-Aには関係なさそうな③群が何故必要なのか少し解説します。
PGT-Aは、まず透明帯をレーザーで切開してから栄養外胚葉の一部分をピペット操作で採取(生検)します。胚に対するPGT-Aの影響を評価するには、「1. 透明帯を切開した影響」が「2. biopsyによる影響」が混ざっていないか確認する必要があり、そのためにレーザー切開のみを行う③群が設定されています。
なお、透明帯の切開はアシステッドハッチングで用いる技術で、凍結前に行っても、凍結して融解後に行っても胚盤胞への影響は変わらないという報告があるため、倫理的に特に問題はありません。
こうして凍結した胚盤胞を融解して、胚の形態のグレード、妊娠率などを評価します。
その結果を、非常に簡単に要約しますと次のようになります。
1.②群のPGT-Aをした胚は融解後生存率が99%で、PGT-Aの胚への影響はなかった。
また、③群の変性率も低く、透明帯切開の影響もみられなかった。
2.Poor qualityの胚では、どの群も融解後の変性率が高い。
3.7日目に胚盤胞に達した胚はどの群も変性率が高い
全体の生産率(胚移植あたり赤ちゃんが生まれた率)としては、PGT-A結果が正常(正倍数体)だった胚盤胞が40.5%、PGT-Aをしなかった群では、26.1%でした。
poor quality胚や7日目胚のPGT-A実施に際しては、費用対効果も含めて議論の余地がありますが、全体としてPGT-Aの生検操作自体の胚盤胞に対する影響は有意に大きくはなく、胚移植あたりの生産率を考えるとその有用性の方がはるかに大きいといえそうです。
ところで今回の結果は、凍結前にPGT-Aを行った場合の検証でしたね。
PGT-Aをしていない凍結胚盤胞を融解してPGT-Aを行い再凍結すればどの程度ダメージを受けることになるのか、気になりませんか?
次回は融解後にPGT-Aを行い、再凍結し、再融解した場合やPGT-Aを2回行った場合についての報告を紹介します。