精液検査の所見が問題なければ大丈夫?(5/24 表を追加しました)
こんにちは、培養室です。
やけに雨が多いなアとは思っていましたが、2週間も早く梅雨入りしたのには驚きました。気温の上昇と、湿度が高い日が重なる時期には、意外と熱中症の危険性が高いのはご存知でしょうか。特にこのマスク生活で、熱がこもりやすく、水分コントロールに失敗しやすいのだそうです。面倒くさくても、特に喉が渇いていなくても、積極的に水分を摂ってくださいね。
当院で行なっている精液検査は一般的なもので、液量・総精子数(1mlあたり)・精子運動率・精子奇形率を、マクラーチャンバーを用いて測定しています。WHOの基準値や、当院での基準値に比較して、あなたの、あるいはあなたのパートナーの精液所見はどうです、という風にお伝えしています。
さて、タイトルの言葉はそんな時に稀に受ける質問です。
「僕には原因がなかったってことですよね!」と朗らかにおっしゃる方もおられまして回答には苦慮するのですが、「見た目上には問題なさそうです」という答え方をしています。基準値はあくまで基準値ですので、基準を満たしていなくても妊娠する方もおられますし、逆に基準値を満たしていてもなかなか妊娠に至らない方もおられます。
では、見た目以外に何が問題になるのかというと、例えば精子頭部のDNA断片化などが挙げられます。
Sperm DNA fragmentation: paternal effect on early post-implantation embryo development in ART
対象の臨床妊娠率、流産率は以下のようになりました。
臨床的妊娠率(/治療周期あたり) | 流産率 | |
全症例 | 22.7% | 10% |
ICSI | 24% | 17.6% |
体外受精(cIVF) | 21.9% | 4.3% |
ICSI、体外受精(cIVF)群のそれぞれで、TUNEL陽性率10%でさらに組み分けを行なって検討されています。陽性率が高ければ高いほどDNAの断片化率が高い状態です。
体外受精(cIVF)群では臨床妊娠率、妊娠損失率(βhCG判定で陽性とされ、化学流産もしくは自然流産した症例の割合)に統計的に有意な差は見られませんでした。ただし、受精率の時点に立ち返るとDNA断片化率が高い群において、若干、受精率低下の傾向が見られました。
一方で、ICSI群では臨床妊娠率、妊娠損失率のいずれにも統計的に有意な差が見られました。
臨床的妊娠率(/治療周期あたり) | 妊娠損失率 | |
TUNEL陽性 10%未満 (C群:n=20) |
45% | 0% |
TUNEL陽性 10%以上 (D群:n=30) |
10% | 62.5% |
精子DNAの断片化が着床後の予後にも関係する可能性が示唆されています。
ここまで明らかな違いがあるにも関わらず、こと受精率に関してはC-D群間に有意な差は見られませんでした。これは、精子DNAの断片化が受精の段階よりも、胚発育以降に強く影響しているためだと考えられます。
2021/5/24 追記:2個目の表が抜けていたので追加し、考察部分も少し増やしました。