採卵時にとれる未成熟卵について 〜一つの卵子も無駄にしないために〜
こんにちは、院長の中村嘉宏です。
新年度になりましたね。新しく周囲の環境が変わるなど変化の多い時期ですが、楽しんで乗り切っていきたいものです。
未熟な卵子とは
さて、前回は卵巣のなかに存在する「超未熟卵子」の体外成熟についてお話ししました。
今回は、体外受精の時に取れる「未熟卵子」についてお話をします。
体外受精の時に取れる卵子は成熟段階に応じて①MII期 ②M I期 ③GV期に分かれます。
このうち受精可能なのは成熟卵であるMII期卵のみです。
MI期、GV期卵は未成熟卵と呼ばれています。
MI期卵については、当日に培養器の中でMII期まで成熟することがあり、この段階に達すると顕微授精や媒精が可能です。
GV期卵は翌日にMII期に達することがあります。MII期に達する確率は従来の培養法では30%以下でしたが、うまく培養すれば、50%程度はMII期に達します。こうしてMII期まで達した卵子は一日遅れで顕微授精して受精させることがあります。
これをone day old ICSI(一日遅れの顕微授精)といいます。
one day old ICSIの場合、胚盤胞形成率は0.8〜3%程度と低いのですが、一旦胚盤胞に達すると移植あたりの妊娠率は当日に顕微授精をさせた場合と変わりません。
ひとつの卵子も無駄にしないために。
一般に卵胞径が16mm以上であればM II期卵の割合が高くなります。卵胞径が10mm以下の卵胞であれば、卵子自体がとれないことも多い上、未熟卵の確率が高くなります。また、小卵胞の穿刺は技術的にも難しくコツが必要です。
そのため、卵胞径が小さい卵胞については採卵できないとして穿刺しない施設も多いかと思います。
もったいない話だと思います。
小卵胞からも卵子が回収できます。小卵胞から回収した卵子のうち、MII期卵が30%ほどをしめ、その日のうちにMII期卵になってくれるMI期卵も10%程度採取できます。
そして残りの60%を占めるGV期卵でも培養方法も工夫すれば最大50%程度の成熟率と3%程度の良好胚盤胞をえることができます。
大卵胞が多くできる場合は、小卵胞にこだわる必要は無いかもしれませんが、40歳を超える方の場合やAMHが低い場合など排卵誘発に反応しないことも多く大卵胞が1個か2個の場合もよくあります。そのような場合でもある程度は小卵胞が存在するので、この小卵胞を穿刺していく必要があります。
当院では体外受精を受ける方の年齢層が上昇していることや白血病の治療中などで卵巣機能が低下している方の治療もお引き受けしているため、基本的に小卵胞であっても卵子を回収していく方針です。
卵胞一つ一つに、卵子の一つ一つに魂を込めていく心構えで頑張っています。