ロボットが顕微授精をするようになる日が来る(かもしれない)
こんにちは、培養室です。
7月になり、いよいよ暑くなってきました。暑さや湿度に負けないよう、エアコンに頼り切って過ごしています。
皆さんも熱中症にはご注意ください。
さて、1992年にヒト卵子を用いた顕微授精が実施されてから30余年、今では多くの施設で実施されています。顕微授精は体外受精に比べて高い受精率が期待でき、乏精子症等の症例にも対応できます。反面、侵襲性が高く、実施者に高い技量が求められます。
今回はそんな顕微授精の一部を自動化・出産に至った論文を紹介します。
First babies conceived with automated ICSI (ICSIA)
人の介在を減らし、また技量を必要としない方法として、顕微授精の自動化(automated ICSI/以下ICSIA)が試みられました。顕微授精の工程のうち、インジェクションピペットの動作制御とピエゾ装置による透明帯・卵子細胞膜の穿刺、AIによる卵子の解析が自動化の対象です。
ICSIA群の操作を顕微授精経験のない技師、コントロール群として従来の顕微授精を経験豊富な胚培養士が実施します。
動物実験と、ヒト廃棄卵を用いたパイロットスタディーを経て、臨床試験を行いました。
臨床試験では3名のドナーから32個の成熟卵を提供され、ICSIA群とコントロール群に無作為に振り分けられました。
顕微授精数 | 受精数 | 良好胚盤胞数 | 正常胚数(PGT-A) | |
ICSIA群 | 14 | 13 | 8 | 4 |
コントロール群 | 18 | 16 | 12 | 10 |
ICSIA群の卵細胞の穿刺に要する時間は、ベテラン培養士が手動で穿刺するのと同程度でした。
ウィーンコンセンサス(2017年に提唱。不妊治療のクオリティ評価で必要な項目とその値を定めたもの。)の指標をICSIAは満たしていました。
しかし、PGT-Aの結果を比較するとコントロール群よりも正常胚率が低い結果が出ました。
また、ICSIA群の正常胚盤胞の移植が実施されました。4個の正常胚のうち3個を単一胚移植1回、2個胚移植1回で移植しました。その結果、両方の移植で臨床妊娠(単胎)が確認、出産に至りました。
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まずはじめに「automated」という言葉から「最初から最後まで全自動」を期待したのですが、精子の選別や確保、穿刺後の精子注入は手動でした。
しかし「それだけか」とは全く思いません。卵子や精子は、どれひとつとして同じものはなく、顕微授精ごとに異なる状況に速やかに対応する必要があります。例えばどこから穿刺するかを即座に判断し、判断した通り迅速に穿刺できるようになるまで長い時間を掛けて訓練します。
この「長い時間」を、ICSIAやその後に続くロボット技術はスキップすることができます。既に訓練を終えた状態で登場し、初日から技量を発揮してくれるICSIAは、人手不足の施設にとっての救世主になりうるのかもしれません。
一方で、充実した結果に見えるICSIA群も、PGT-A結果においてコントロール群より低く出ています。
人の介入を減らすためのICSIAですが、今のところ人なしではできません。今回ICSIA群は顕微授精未経験者が操作担当者であり、そこから差が生まれた可能性があります。あるいは、ICSIAのプログラムにも追加しきれていない、ベテラン培養士との差がどこかに隠れているのかもしれません。
この結果を受け、今後の目標として操作の最適化や、精子選別・捕獲の自動化などを目標に挙げておられます。
いずれにしても、一筋縄ではいかないところばかりです。今後のアップデートに注目したいと思います。
最後になりますが、体外受精の自動化技術を紹介した記事を見ました。
胚培養士の不足、施設間の成績差、コスト面の問題等々。現行の体外受精には是正されるべき部分があると記事は指摘しています。体外受精の自動化が、諸問題解決の一助になることが期待されています。