めずらしい形のたまご2
こんにちは培養室です。
以前、めずらしい形のたまごをご紹介しました。ふたつの卵子が透明帯部分で融合しているたまごです。
このようなたまごは採卵を行ううえでまま見られます。透明帯を完全に共有し、一つの空間に細胞質が2個収まっていることもあるようです。
さて、このようなたまごを治療に用いても大丈夫なのでしょうか?
Live birth from a blastocyst derived from a conjoined oocyte in a frozen embryo transfer cycle: a case report and a literature review
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35320445/
今回ご紹介するのは、2022年に発表された論文です。
透明帯部分で繋がった結合卵子を用いた治療の症例報告と、結合卵子に関する論文のレビューがセットになっています。
①症例報告
中国人夫婦が受けた採卵で結合卵子が確認された。
結合卵子は透明帯部分で融合しており、それぞれ成熟した卵子と未熟な卵子が確認できた。
結合卵子を含む10個の成熟卵子に顕微授精を行い、適宜培養・胚凍結を行った。
成熟卵10個 | 顕微授精 | 凍結段階 | 融解後追加培養 | AHA | 移植 |
1※結合卵子 | 2PN(正常受精) | 5日目良好胚盤胞(4BB)① | – | 菲薄化 | ○ |
2 | 2PN(正常受精) | 6日目胚盤胞 | – | – | |
3 | 2PN(正常受精) | 6日目胚盤胞 | – | – | |
4 | 2PN(正常受精) | 3日目良好胚 | 5日目胚盤胞(5BC) ② | 貫通 | ○ |
5 | 2PN(正常受精) | 3日目良好胚 | 発育停止 | – | |
6 | 2PN(正常受精) | 記載なし | – | – | |
7 | 2PN(正常受精) | 記載なし | – | – | |
8 | 培養終了 | – | – | – | |
9 | 培養終了 | – | – | – | |
10 | 培養終了 | – | – | – |
3日目初期胚で凍結胚を追加培養し5日目に胚盤胞に至った胚(上表中②)と、結合卵子由来の胚盤胞(上表中①)の合計2個を移植し、2卵性双児が生まれた。
100日後の追跡調査では、生まれた児は共に健康に発育しており問題は見られなかった。
顕微授精した結合卵子由来の凍結胚盤胞移植での出生、また、変性した結合卵子の片方を切除せずにそのまま移植を行った症例として初めて報告された。
②論文のレビュー
筆者が調べた中で、50を超える症例のうち、受精を試みた結果は以下の通りであった。
結合卵子数 | 2PN(正常受精) | 発育状況 | 移植 | 着床 | 出生 | |
39個 | 27個 | 胚盤胞 | 11個 | 5個 | 4個 | 3人(3症例) |
初期胚 | 4個 | 4個 | 0個 | – |
出生に至った3症例のうち、2例は顕微授精後の新鮮胚移植、1例は体外受精後の凍結胚移植によるものだった。
FISH法による解析で、結合卵子の成熟卵子は正常な倍数体である可能性が示唆されている。
それでもなお移植される胚が少ない理由は、他の胚が育っている場合には他の胚から移植されるためであると考えられる。
結合卵子が採卵された患者の卵子を分析したところ、通常形態の卵子と結合卵子の間に分割や良好3日目胚の形成に関しては有意差は見られなかったが、胚盤胞到達率において結合卵子が有意に低下した。
※※※
ひとつの卵胞に複数の卵子が含まれる現象は病的なものではなく、ヒトや動物の卵巣に数は少ないながら確認できる現象なのだそうです。
今回の論文からは、結合卵子に含まれる成熟卵子は体外受精や顕微授精での受精、体外培養による胚発育が可能であること、移植による妊娠・出産に繋がりうる卵子であることが確認できました。
ただし、胚盤胞到達率は通常形態の卵子に比べると有意に低い値であることなど、引き続き検討されるべき卵子でもあります。
現時点で胚移植の順序については、原則は通常形態卵子由来の胚を優先しつつ、グレードに応じて夫婦と医師とでよく相談して順番を検討をするべきだとしています。