胚培養士って何人くらいいるもの?
こんにちは、培養室です。
体温を超えるような暑さが続き、本当に毎日大変ですね。体調など崩されないよう、ご自愛ください。
今回は、不妊治療に関する臨床や研究ではなく、“各施設の胚培養士数”にフォーカスした論文をご紹介します。
Assessment of embryologist sufficiency and associated regional disparities in Japanese assisted reproduction facilities using nationwide survey data (IZANAMI project)
(https://obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jog.16022)
期間と対象:2021年12月~2022年2月に国内621施設を対象にアンケートを実施
そのうち、体外受精をやめた、施設閉鎖、治療実績がない7施設を除外し、回答を得られた435施設について集計
周期数 | 施設数 | 配置すべき培養士数(ASRM基準) |
ASRM基準を 満たす施設割合 |
1-150 | 83 | ≧2 | 48.2%(n=40) |
151-300 | 54 | ≧3 | 27.8%(n=15) |
301-600 | 118 | ≧4 | 33.1%(n=39) |
601-1000 | 61 | ≧5 | 49.2%(n=30) |
1000以上※ | 119 | ≧7 | 58.8%(n=70) |
435 | 44.6%(n=194) |
※10,000周期を超える3施設を含む。最も多い施設でおよそ20,000周期、胚培養士70名が在席。
下図:各都道府県の培養士数
・今回対象となる胚培養士は、胚培養士として雇用されている人数(資格の有無は問わない)。対象者1981名、施設あたりの平均人数は4.4人。
・胚培養士の最低人数を満たす施設は44.6%。
・ASRMの人数基準を満たしている施設数を都市部(東京23区と各政令指定都市)か否かで比較した場合、都市部76/144(52.8%)と非都市部118/291(40.5%)で有意に都市部が高かった。
・最も多くの胚培養士が在席するのは東京都の463名。また、胚培養士が10名以下の都道府県は9ヵ所あった。
・都道府県別胚培養士1人当たりのART周期に3倍以上の差が見られた。山梨県が最も多く(胚培養士5名:1人当たり325症例)、山口県が最も少なかった(胚培養士10名:1人当たり101症例)。
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7月上旬に出たばかりの論文です。
国内の胚培養士についてまとめた論文はあまり見たことがなく新鮮でした。
まず、今回の論文では採卵周期(たまごを採る周期)と移植周期の合計をART周期数としてカウントしています。つづいて、各施設に配置するべき胚培養士の人数の基準として採用した指標はASRM(アメリカ生殖医学会)で提唱されたものです。
今回の条件からは外れていますが、日本でも採卵150症例当たり2人以上が望ましい(2021年生殖医学会ガイドライン)とされています。
さて、上記の条件のもとで、胚培養士の最低人数を満たす施設は44.6%でした。特に中小規模の施設で培養士の不足が目立ちました。人が足りない、少人数で回しているという話はよく聞くものの、実際の数字で見るとなかなか衝撃的です。
この他、胚培養士は都市部に集中していることも読み取れました。
胚培養士のおよそ8割が女性であることも相まって、少人数の施設は胚培養士数の確保が課題になります。胚培養士不足の地域の話や、胚培養士育成に力を入れているというニュース(リンク先:産経新聞)が時折聞かれるのはこういう事情からでしょうか。
また、1000周期以上のグループ内には、施設間に極めて大きな差がある点にも注意が必要です。上から3施設(全施設の0.69%)はそれぞれ10,000周期以上を行ない、ART周期の9.7%を占めています。更に、最大の施設だけに着目した場合、単体でおよそ20,000周期(全周期の4.6%)を取り扱っています。仮に1000周期ちょうどの施設があったとすると、同じグループではありますが、症例数には20倍の差があることになります。
周期数が増え、PGT-Aなどの新しい技術が増えるたびに、必要なスタッフ数が膨らむのは自然なことです。しかし、その具体的な数については、指標により違いがあるようです。
加えて、胚培養士という存在の扱いも各国で様々です。今回は、有資格者に限らず、胚培養士として雇用されている人数を中心に調査が行われました。法的な裏付けがある国もあり、日本でも国家資格化を進めようとする動きがあります。
だからこそ、日本の状況に合わせた基準の必要性を論文内で述べられていました。
今回はかなりかんたんにまとめましたので、紹介できなかったデータがたくさんあります。ご興味がある方はぜひ論文をご覧ください。