胚盤胞培養液に違いはあるか?
こんにちは、培養室です。
今日は、体外受精を行う上で日常的に用いられている「培養液(メディウム)」についての論文をご紹介します。
「胚盤胞培養液に違いはあるか?」
常日頃、培養液(メディウム)により胚のクオリティーに差があるのか疑問に思っていました。
胚盤胞の培養については、胚の発育段階にあわせて内容を変えるツーステップと内容を変えないシングルステップの2種類の培養液があります。
当院では主にシングルステップメディウムを用いていますが、当院で主に使用しているA社とB社以外にも何種類か発売されています。それぞれの培養液の詳しい組成については企業秘密になっています。
Conposition of single culuture-step media used for human embryo culture.
(ヒト胚培養に使用されるシングルステップメディウムの組成)
Fertil Steril 2017 Apr 107(4):1055-1060という論文に紹介されています。
今回は、培養液の組成を調べた論文を見つけたので紹介したいと思います。
この論文は、シングルステップメディウムの組成の測定と組成の違いで胚発育の影響をマウスモデルで試験することを目的としています。
4社のシングルステップメディウムについて、グルコース、乳酸、無機イオン、アミノ酸など胚の発育や代謝に関連するものを比較しました。
結果は、それぞれの培養液の間で濃度が多様であるということでした。例えば、濃度が測定されたアミノ酸は21種類ですが、各社の培養液によって含まれる量は異なり、1社にだけ含まれていたものもありました。大きな差ではありませんが、アミノ酸の総量にも違いが見られました。マウス胚を用いて行われた胚盤胞到達についての検討では、酸素濃度に影響を受ける培養液と受けない培養液に分かれました。
これらにより、胚盤胞への発育は培養液と酸素濃度の相互作用に影響を受けると結論づけています。各社の培養液の組成を解析することで、様々な成分の濃度が示されました。4社で全く異なるばかりではなく、成分によっては似ている特徴を持つことが分かりました。
当院の培養液(メディウム)別培養成績
当クリニックも、2種類の培養液を使用していますので、胚盤胞到達率と妊娠率について調べてみました。
A社とB社を比較すると、胚盤胞到達率が53.2%と51.5%、妊娠率が37.8%と36.2%でした。
培養液の成分に違いが見られますが、それぞれ良い成績を得ることができています。各社の培養液の特徴を理解することで、より適切な培養液の選択に繋がると考えられます。
次回のコラム予定
「培養液(メディウム)による出生時体重の影響」
次回のコラムも引き続き、培養液(メディウム)に関する話題です。
今回のコラムでは、培養液間で胚盤胞率・妊娠率に差は見られませんでした。様々な培養液の微量な成分差がどんな影響を及ぼすのか−−、赤ちゃんの体重に着目した論文が発表されていましたので、ご紹介します。