タイムラプスインキュベータと妊娠率
こんにちは、培養室です。
体温を超える暑い日もある今夏、皆さんの体調はいかがですか。
今年の初めにタイムラプスインキュベータを導入し、半年が経ちました。
※タイムラプスインキュベータとは、設定した時間間隔で胚の写真を撮影しつなぎ合わせることで発育の過程を確認することができる培養器です。従来型のインキュベータとは異なり、外に取り出し顕微鏡下で観察する必要がないので胚の環境を変えることなく培養と観察ができることが強みです。
導入後は全症例をタイムラプスインキュベータで培養し、今までは知ることができなかった夜間の胚の発育過程も確認しています。
今回は、タイムラプスインキュベータ導入後、凍結融解胚盤胞移植の妊娠率がどのように変化したか紹介したいと思います。
上のグラフは、2017年の1年間に施行した凍結融解胚盤胞移植と2018年1月から5月までに胚盤胞凍結し、その後融解移植した症例を比較しています。
妊娠率が約10%上昇し、タイムラプスインキュベータで発育した胚盤胞の妊娠率が良好なことが分かります。
発育した胚盤胞は、同じグレードであっても発育の過程を詳細に確認することで凍結融解胚移植の際により妊娠の期待できる胚を選択することができます。
次に、上の動画はそれぞれ、実際に胚が発育していく過程を記録したものです。
左右の動画両方とも、受精が確認され、分割が進んでいます。細胞同士が接着を始めて胚盤胞へ成長していきます。
左側の最後は凍結作業のためタイムラプスインキュベータから取り出されて空になっています。
外に取り出すことなく観察できるので凍結するタイミングを従来のインキュベータより容易に図ることができます。凍結の前には胚盤胞の大きさも測定しています。複数の凍結胚で、発育過程、グレードが似ている時には、大きさも参考にすることによって移植する胚を選択します。
一方で、動画の右側は左のものとは少し異なります。
受精後、同じように分割、胚盤胞の形成が始まりますが、一度は胚盤胞が形成されたあと急速に収縮してしまいます。
その後、時間が経過し再度胚盤胞が形成され凍結に至ります。
2つの動画のような発育過程の違いを観察できる割合は、従来の方法では低いものでした。
タイムラプスインキュベータを導入してからは、発育過程で生じる収縮も確認することができる頻度が上昇しました。タイムラプスインキュベータが普及し始めた現在では、胚盤胞が発育する過程で生じる収縮が移植後の妊娠率に影響をとの報告もあります。
今回タイムラプスインキュベータで発育した胚盤胞を調べたところ、少数の胚盤胞に収縮が見られたことが確認されました。凍結融解胚盤胞移植後の結果を確認したところ、収縮した胚盤胞も収縮しなかった胚盤胞も妊娠率に差はありませんでした。
しかし、収縮の程度や回数によって成績が変動することも考えられるので今後も注視していく予定です。
タイムラプスインキュベータ導入後、妊娠率上昇が確認できました。
この理由は、胚の培養環境が変化せず、発育過程を詳細に知ることができた事が一つの要因と考えられます。
タイムラプスインキュベータは観察者に様々な事柄を教えてくれるので、同じグレードの胚でも発育過程や小さな変化も逃さず記録し、より妊娠を期待できる胚の選択に大きな役割を果たしています。今後も良好な結果が得られるよう更に検討を重ねたいと思います。