妊娠ができない理由は様々です。
特にタイミングや人工授精のような一般不妊治療では、
「本当に卵子と精子はちゃんと出会えているのかどうか…」、
「受精した卵はちゃんと成長しているのだろうか…」等、
身体の中で起こっていることは、あくまで推測するほかありません。
もしも、身体の中で精子と卵子がちゃんと出会えていないのであれば、体外受精を行い精子と卵子を出会わせることで、受精やその後の胚の発育をある程度まで確認することができます。
もしくは、精子と卵子が出会えていても受精が上手くいかないこと(受精障害)が発覚するかもしれません。受精障害は、体外受精を行うことで初めて診断することができます。このように不妊症の中には、高度生殖補助医療(体外受精)に進んで初めて原因が判明するものもあるのです。
また、ひとくちに受精しにくい(受精障害)と言っても原因はいくつか考えられます。
精子側(男性因子)、卵子側(女性因子)、その両方に原因がある場合、あるいは全く原因がわからないこともあります。
まず男性側の原因として挙げられるのは、受精に関わる能力がある精子数の問題です。当クリニックでは精液検査の結果に基準を設けています。
項目 |
WHO基準値(2010) |
精液液量 |
1.5ml以上 |
精子濃度 |
1500万/ml以上 |
精子総数 |
3900万/ml以上 |
運動率 |
40%以上 |
正常形態率 |
4%以上 |
この基準は、自然妊娠した夫婦の夫が精液検査した時の下限のデータを平均した数値を元にしています。
ですから、この数値があれば大丈夫!という類のものではなく、あくまで参考程度に考えて下さい。
また、精液検査の結果は、禁欲期間、生活のストレス……
こういったものがなくても、検査をするたびに結果が大きく変わるものです。
ただ妊娠するためには、形の良い元気よく動く正常な精子がある程度たくさんいることが、非常に重要です。
複数回行った精液検査の結果が、基準値を大きく下回るのであれば、早いうちに顕微授精を検討した方が最終的には早い段階で妊娠・出産という結果に結びつくかもしれません。
一般体外受精や人工授精の場合は、密度勾配遠心法という方法を用いて、精液を濃縮精製しています。
この作業により、比重の軽い異常精子を除外し、元気よく動く正常な精子を選別します。精製前の精液検査では問題なさそうな所見であったのに、精製後にぐっと精子数が減っていたとしたら、それは一見精液検査は基準値内であったけれど、正常な精子の数が少なかった、ということです。受精するために、まず精子は卵子を取り囲む卵丘細胞を掻き分けて、透明帯を貫通することが必須です。精子の運動能力が低いと、精子が透明帯を貫通できず、受精できない可能性があります。
また、精子は受精までに様々な因子を放出します。中でも、卵子の細胞質に接した後にPLCζという因子を放出し、卵子内のカルシウムを上昇させます。
カルシウムは卵子内を波状に伝播していき、卵子を活性化します。
このカルシウムの波は繰り返され、一定時間続きます(カルシウムオシレーション)。その間に卵子内で様々な変化が起こり、2個の前核(卵子由来、精子由来の遺伝子が入っている)が形成され、受精が完了します。これらの因子が不足していたり、全く放出できなかったりすると、やはり受精は完了しません。