なかむらレディースクリニックの未受精卵子凍結
2024年10月08日こんにちは、培養室です。 大変暑かった夏が終わり、急に朝晩が冷えるようになりました。気温の変化が激しく体調管理が非常に難しいですね。 このコラムでは、未受精卵子凍結について書かせていただくことが多いです。
女性が高齢化すると妊娠しにくくなる最大の原因は卵子の加齢です。
卵子は新しく作られることがありません。そのため、加齢とともに卵子の残り数が減っていきますし、加齢によるダメージが蓄積します。
生まれた時に200万個あった卵子は、思春期には30万個まで減少します。そして、排卵があってもなくても1日30~40個自然に減少します。(グラフ1)
また、加齢による卵子のダメージの蓄積ですが、卵子のダメージにより、35歳をすぎると急速に妊娠率が低下し流産率が上昇することが知られています。(グラフ2)
35歳より妊娠率が低下し、流産率が急上昇する原因は、卵子に加齢によるダメージが蓄積し、卵子の染色体異常の割合が急激に増えるからです。48歳になると妊娠率は限りなく0%に近づいてきます。卵子の加齢による、数や質の低下は、外見上の見た目とは関係がなく、だれにでも起こる現象なのです。
20歳代から30代後半ごろの方で、現在さしあたって結婚の予定がないけれども、将来の妊娠に備えておきたい方にとって、卵子凍結は非常に有効な方法です。この年代の方は、仕事でも重要なポジションにあり、すぐにパートナーがみつからない、あるいはすぐに妊活をできないといった悩みがある世代です。将来に不安があり、卵子凍結のことが気になった方は、日本産科婦人科学会が公開している【ノンメディカルな卵子凍結について】の動画をご覧頂き、メリットデメリットについて納得した上で、ご相談にお越しください。※この動画をご覧にならずに、来院された場合は待合いにて視聴して頂きます。視聴終了後に診察にご案内しますので、院内の滞在時間が長時間になります事をご了承ください。
当院では、20年以上前から、がんなどの悪性疾患の治療のため卵巣機能が失われる可能性がある方を中心に、卵子凍結の経験を重ねてきました。がん治療をされている方はすでに抗がん剤の治療をされている方も多く、そのような場合の採卵は健康な方の採卵に比較すると非常に高度な排卵誘発方法の工夫や採卵技術が要求されます。また、採取できる卵子の数も、治療時間も限られるため、失敗が許されません。私たちは長年にわたり難しい症例を多数経験することで、技術の向上をはかってきました。そしてこの経験の蓄積をいかして、当院独自の凍結方法、融解後の受精方法(ダイレクトICSI法)を開発して臨床に応用し、良好な成績を収めています。
白血病を中心としたがん患者さんの治療後の出産成績、症例数は全国有数です。また、骨髄移植後の出産例も3例経験しており、全国トップクラスです。
一般的には、通常の体外受精より凍結卵子を用いた体外受精は妊娠率が低下するといわれていますが、当科では通常の体外受精と変わらない妊娠率を達成しています。(表1参考)
37.4 ± 6.4歳
185個
74.7%
17例
37.8%
12例
26.7%
当クリニックでは、これまでの未授精卵凍結技術を独自に改良し現在の凍結・融解方法へ辿り着きました。過去の凍結方法では、卵子の周りを覆う細胞(顆粒膜細胞を少しだけ残していましたが、現在は周りの細胞を全て取り除き、成熟卵(MII期)であること確認して凍結しています。
凍結融解後、卵子の生存率は当院では約90%です。また、凍結卵子を受精させる場合、顕微授精が必ず必要となります。一般的に未受精卵融解後の受精率は、新鮮卵に比べて劣ります。
しかしながら当クリニックでは、未受精卵を融解後、迅速に顕微授精させる方法 (ダイレクトICSI法) を考案し、凍結卵子からの妊娠率を飛躍的に上昇させました。未受精卵の場合、凍結、融解、回復 (元の大きさ) し、しばらく待っている間に融解した卵子が変性 (だめになってしまう) してしまう場合があります。
ダイレクトICSI法は、その現象を逆手にとり融解した卵子の回復を確認後すぐに顕微授精する方法です。
一度凍結融解した卵子に顕微授精を行うことは、技術的に難易度が高いのですが、迅速かつ繊細に行うことにより変性を防ぐことができるのです。
なお、このダイレクトICSI法が有効なメカニズムについてはまだよくわかっていませんが、早期に精子を注入することで受精卵内に変化がおこり卵の変性を防いでいるのではないかと考えています。
この技術を用いることで新鮮卵と同等の妊娠率を得ております。(上記表1参照)
卵子凍結で大切なことは、卵子を凍結することだけであれば、どの施設でも大きな差がない、ということでしょう。凍結卵子融解後の顕微授精操作、培養技術により妊娠率が大きく変わってくる点が、非常に重要です。当院では、難易度の最も高いがん患者様の卵子凍結、融解、顕微授精に長年にわたり真剣に向き合って技術を蓄積した結果、非常に良好な妊娠率を得ています。卵子凍結で最も大切なことは、この点であることを忘れずにいてください。