これからの生殖医療⑤ 反復着床不全対策の新しい切り札ERA(子宮内膜受容能検査) part1
こんにちは、院長の中村嘉宏です。
立秋を過ぎ、暦の上では秋になりました。暑さはまだまだこれからが本番ですが、この気候に負けず頑張っていきたいものです。
さて前回までは、状態のいい受精卵(胚)をいかにして選ぶか、お話ししてきました。
今回から着床する側、「子宮内膜」のお話に移ります。
反復着床不全はインプランテーションウィンドウがずれてるせい?
以前のコラム(着床の適切な時期は? インプランテーションウィンドウについて)でもありましたように、ヒトの受精卵(胚)が着床できる時期は排卵後の限られた時期になります。
具体的にはLHサージの開始後およそ7日後あたりの期間が着床可能な時期だとされています。
これを踏まえ、実際の凍結融解胚移植では、受精卵(胚)の排卵してからの「日齢」と内膜の排卵してからの「日齢」を一致させるように内膜を調整します。
〜内膜とホルモンとの関係について〜
話の途中ですが、ここで内膜とホルモンとの関係について少しおさらいします。
内膜は月経初期に分泌されるエストロゲンにより「厚み」を増していきます。
エストロゲンは内膜を厚くさせる効果がありますが、厚くなるだけでは着床できません。
続いて排卵後に卵巣から分泌されるプロゲステロンにより内膜の「性質」が変化します。この変化によって、子宮内膜は胚盤胞を受け入れることができるようになるのです。
おさらいおしまい。
それでは、移植する時の胚と内膜の「日齢」が一致するように調整していきましょう。
まず、基準となる日を設定します。基準にするのは「排卵日」、つまり「プロゲステロンが分泌され始める日」をday 0とします。
ホルモン補充周期ではプロゲステロンを開始する日、自然周期では(LHサージの約36時間後に排卵が起きますので、LHサージを起こす)GnRHa スプレー(点鼻薬)を行った2日後がday 0になります。
一方で、胚は着床する時の段階である胚盤胞を基準にしています。胚盤胞は排卵後5日後あたり、day 5頃から見られます。
ですから、凍結胚盤胞移植であればday 5に凍結胚を融解して胚移植しています。一般的には、このday 5の状態に調整した内膜が胚盤胞にとって最も着床しやすい状態です。ちなみに初期胚移植であるなら、胚の日齢と同じだけ内膜の日齢を減らして移植を行います。
しかしながら形態良好胚をday 5に調整しても、着床がなかなか成立しない場合や化学的流産に終わってしまう場合があります。
そういう状態の場合、インプランテーションウィンドウがずれている可能性があります。
ERAという検査により、人によってはday 5の内膜が必ずしも着床しやすい環境ではないことがわかってきました(いつ移植したらいい?最適な日を探るERA)。着床不全の方のうち、day 5がインプランテーションウィンドウになっていない割合が28.6%にのぼることがわかっています。
day 5が受容期※でない人のうち、87%はday 5以降が受容期になります。そして残りの約13%の人がday 5以前に受容期が来ることがわかっています。
(※ERAではインプランテーションウィンドウである時期をReceptive:受容期、インプランテーションウィンドウではない時期をNon-Receptive:非受容期と表現します。)
ERA検査については、過去のコラムで紹介していますが、より詳しく説明し、当院でのデータもお示しします。
当院では、かなりいい結果が出ています。
今回はここまでにしましょう。